昨今、空き家問題は大変大きな社会問題として深刻化しています。
さらに空き家の相続となると、非常に難しいお話です。空き家を相続する場合は、後述するような「法定相続人」や順位、割合などを、きっちりと考えることがとても難解なのです。また、不動産なので1円単位で計算できるものでもありません。一定の不動産価値はあるものの、なんでもきっちりと分割するのは非常に困難を極めます。
今回は、不動産の相続に触れる前に、「相続」というものの基本中の基本をおさらいしてみましょう。
法定相続人の範囲と相続順位
生前に所有していた財産の権利義務は、その人が亡くなることによって、亡くなった人と一定の関係にある人に移転します。それが「相続」です。
一定の関係の人とは「法定相続人」のことで、その法定相続人に財産を移転させることを「相続させる」といいます。つまり、財産を相続させるということは、法定相続人に財産の移転を行うことだと言い換えられるのです。
「法定相続人」は民法で定められており、範囲や順位などもしっかりと明記されています。
ここでは法定相続人の順位と範囲について少し掘り下げてわかりやすくお話いたします。
被相続人とは
被相続人とは簡単にいうと「財産を渡す人」ということになりますが、生前に渡すのではなく、死亡して財産を所有できなくなった後に渡すことをいいます。ちなみに生前に渡すのは「贈与」になります。亡くなってから渡すので、「被相続人」は故人と呼ばれることが多いのです。
法定相続人とは
相続人とは「遺産を相続する人」を示していますが、つまりは人が亡くなって、その亡くなった人の遺産を引き継ぐ人を相続人と言います。
その「相続人」は、民法第886~895条によって「被相続人」の遺産を誰が引き継ぐのかを明確に定められています。民法で定められた相続人を「法定相続人」と呼びます。
ですが、被相続人が生前に遺言書を作成しており、そこに法定相続人以外の人に対して遺産を渡す旨の内容や、違う割合での相続を決めている場合は、法定相続人で引き継ぐ限りではありません。
配偶者の扱い
被相続人に配偶者がある場合は、必ず法定相続人となります。ですが、民法で相続権が認められているのは「法律婚」での配偶者に限ります。婚姻届けを提出していない事実婚や内縁関係は法定相続人になりません。たとえ何十年も寄り添っていても、被相続人の介護をしていたとしても民法上の法定相続人にはなりません。そこには婚姻届けの重さが感じられるかもしれませんね。
(ここでは詳しく触れませんが、ある一定の条件を満たすとその限りではありません。)
法定相続人には範囲や順位が付けられています、先順位の相続人がいる場合には後順位の相続人には相続をする権利はありません。
相続順位
第1順位 直系卑属
第1順位は被相続人からみた子どもなどで、直系卑属といいます。
第1順位は最も優先される相続人で、被相続人に子どもがいたら必ず相続人となります。
※前妻・前夫との子、養子も認知されていれば相続権は認められています。
第2順位 直系尊属
第2順位は被相続人から見ての親などで、直系尊属といいます。
第1順位の子どもや孫がいない場合は、その順位が下がり第2順位の直系尊属が相続人になります。こちらも親が他界していたらその親(祖父・祖母)と続きます。
第3順位 兄弟・姉妹と甥・姪
第1順位も第2順位もおらず兄弟姉妹がいる場合は、兄弟姉妹が第3順位となります。
兄弟姉妹も他界しているときは甥・姪に相続権の移転が認められます。
相続人と相続の順位は常に存在していて、被相続人から見て子・親。兄弟姉妹が存在しなくても法定相続人は存在します。
代襲相続
被相続人から見た配偶者は相続人となりますが、その他の相続人の子どもや親など。兄弟姉妹がいる場合は順番に従い相続人の権利があります。しかし、その順位の方がいない場合(死亡も含む)に代襲相続ということになるのです。
代襲相続は順位別に存在します。
直系卑属の場合
被相続人の子どもが先に他界していて、その子どもの子ども、つまり(孫)がいる場合は、その孫が第1順位。その孫が他界し、その子ども(ひ孫)がいる場合にも、そのひ孫は第1順位となります。直系卑属の場合はどこまで下がっても第1順位の相続人となります。
兄弟・姉妹の場合
被相続人の直系尊属、直系卑属がいない場合は兄弟・姉妹へ順位が移りますが、兄弟・姉妹の誰かが他界していて、その子(甥・姪)がいる場合はその甥・姪に相続の権利が代襲することとなります。
直系尊属
直系尊属の場合の父母が他界しているケースでは、被相続人の祖父母となり、こちらは代襲相続とは区別されています。
法定相続分
配偶者のみ1/1
直系卑属1/2 配偶者あり1/2 直系卑属1/1 配偶者なし0/0
直系尊属1/3 配偶者あり2/3 直系尊属1/1 配偶者なし0/0
兄弟・姉妹1/4 配偶者あり3/4 兄弟・姉妹1/1 配偶者なし0/0
※配偶者以外の法定相続人がいる場合は、原則均等に分けます。
それぞれに配偶者の有無で変化はありますが、割合も変わってきます。
空き家を相続する場合にはその順位・範囲・割合といったものはなくなってはきます。そして法定相続人はあくまでも基準であって、遺言書があればそれに従います。遺言書がなくても相続人同士が話し合い、遺産分割協議書などの作成により、それぞれの取得する遺産が決まっていれば問題はないでしょう。
しかし空き家のような不動産の場合はお金のように1円単位で分けられませんし、ケーキのように分割もできません。
そんな場合に遺産を分割する方法があります。次項ではそれを見ていきましょう。
遺産の分割
現物分割
財産をそのままの形で分割する方法。例えば土地や建物は長男、有価証券は次男、あとの法定相続人には現金など。
財産をそのまま残せるというメリットはありますが、均等に分けることが難しいといった側面もあります。
換価分割
財産を売却して現金で分割する方法。相続する財産を分割することによって公平な分割ができるといったメリットがあります。しかしその一方では財産の現物が残らない、売却の手間や費用が発生。売却時に得た利益による所得税や住民税などがかかることもあります。
代償分割
複数人の法定相続人の中の1人が、法定相続分を越えて財産を取得したときに、他の法定相続人に差額を現金などで支払う方法。
財産のほとんどが不動産や、自宅などを残しておきたいときに用いられますが、支払う側にそれを補う資力が必要となります。
共有分割
財産を法定相続人で共有し相続をする方法です。
財産の一部あるいは全部を相続人全員で共有することで公平な分割が可能な反面、財産の利用や将来の売却など、相続人全員の合意が必要となります。自由度は低く、次の相続になれば共有される相続人は増え、利害関係が複雑になり、新たに問題となる可能性も十分に考えられるといった懸念もあります。
まとめ
空き家の相続には一長一短あり、単に相続順位と範囲や割合だけでおさまるような簡単な問題ではありません。やはり、空き家になりそうな不動産は相続が始まってから考えるのではなく、その前からしっかりとした対策を講じておかなければ、全てが後手にまわり、思ってもいないしっぺ返しが来てしまします。
人と人のつながりの部分は大きく、揉めるも揉めないも相続人の感情の問題が大きく作用されてしまうので、法定割合や分割方法ではなく、法定相続人同士による話し合いや、日ごろのつき合いがカギとなることも大いにあるでしょう。